篠原千絵氏の歴史恋愛アクション・ファンタジー・マンガ『天(そら)は赤い河のほとり』について、大体3巻までを少々。




天は赤い河のほとり(1) (フラワーコミックス)天は赤い河のほとり(1) (フラワーコミックス)
(2012/09/25)
篠原千絵

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『天は赤い河のほとり』(そらはあかいかわのほとり)は、篠原千絵による日本のマンガ作品。


《概要》

主人公である現代日本(1995年)の女子中学生・鈴木夕梨(すずき ゆうり)は、古代オリエントの強国ヒッタイトの皇位継承権争いから呪術によりタイムスリップ。
政治抗争や他国との戦争に巻き込まれる中で、やがて戦いの女神(イシュタル)として崇拝されるようになり、ユーリ・イシュタルとしてヒッタイトの皇妃(タワナアンナ)となるまでを描いた古代史ロマン。実在の人物・国家も数多く登場し、モデルとして作中の創作エピソードにも影響を与えている。


《ストーリー》

第一志望の高校に合格したばかりの中学生―鈴木 夕梨(ユーリ)は、ボーイフレンド―氷室 聡との仲もいい雰囲気となり、暖かい家族に囲まれ、幸せな毎日を送っていた。
そんな矢先、楽しいデートの最中に突然現れた両手によって、水溜りの中に引き込まれる。両手から逃れて水中から顔を出したユーリが目にしたのは、紀元前14世紀のヒッタイト帝国の首都ハットゥサだった。

ユーリを召喚したのは、国内で絶大な権力を持つ皇妃―ナキアだった。
訳も分からぬままナキアの私兵から逃げ惑うユーリを、自分の側室と偽って助けたのは、その血筋・有能さから皇位継承の最有力候補として、ナキアに最も邪険にされていた第3皇子―カイルだった。自身の息子である第6皇子―ジュダに皇位を継がせたいナキアが、邪魔な兄皇子達を呪い殺す生贄としてユーリを呼び寄せたことを知ったカイルは、そのままユーリを自らの宮に匿うようになる。
ユーリが日本へ戻るには、3つの条件“高位の神官の魔力”、“暁の明星(イシュタル)の登る“水の季節”に、国内7つの泉が満ちる時”、“ユーリが着て来た服”を揃えなくてはいけない。一刻も早く日本に戻りたい一心から、罠と知りつつもカイルの使用人―ティトを伴ってナキアの宮へ忍び込んだユーリは、服は取り戻したものの、ティトを犠牲にしてしまう。

結局、ようやく日本に還る儀式に臨んだユーリだったが、ティトの仇討ちを誓って、翌年の泉の満ちる“水の季節”まで帰還を見送ってしまう。
身の安全のため、片時も離れずカイルにつき従えるようにと行動するうちに、ユーリはその才覚で大きな戦功を挙げる戦いの女神―“イシュタル”としてヒッタイト国民に広く認知されるようになっていく。それと共にカイルとユーリも互いに強く惹かれ合っていくが、ユーリがやがて帰還することを思うと気持ちを交わすことを躊躇い、ユーリはカイルの即位をイシュタルとして支えるようになる。

数々の困難を乗り越え、やがてヒッタイト“皇帝(タバルナ)”―ムルシリ2世として即位したカイルだったが、ナキアが“元老院(バンクス)”と共に皇帝から独立した権限を持つ“皇妃(タワナアンナ)”であるため、度重なる妨害を受けても容易に反撃が出来ない。
ナキアは腹心の神官―ウルヒを使ってさまざまな謀略でユーリ達を狙い、カイルの異母弟である第4皇子―ザナンザやユーリの忠臣となった女官―ウルスラを毒牙に掛け、国を脅かし続けた。その上、エジプトの名将―ラムセスもユーリを妻にと狙うようになる。

〈後略〉


エッと、これは実に座右の書に等しいほど、好きな作品でありながら、今まで話題にした事が無いという、いわゆる「どこから話題にしていいのか途方に暮れるほど好きな作品」の1つで、今ままで封印していたモノの1つです。
何しろ単行本(コミックス)第1巻の発売が、1995年06月ですので当然ですがインターネットなんてまだまだの時代です。当然、単行本発売毎の感想やら評論など書いたとしても、発表する場もなくそういう方法すら、思い付かない時代でした。
結局、最終28巻は2002年08月の発売ですのでブログにまとめるとか、そういう考えが及ばない時代の作品である事が最大の理由です。イヤ、それでも好きならば記事に出来るだろう?とは思いますし、事実そういう作品も幾つか記事にしています。
ただこの作品の場合、まず基本的に現代女性マンガの定番である、「読み切り」スタイルを取っていません。掲載当時のプチ・フラワー誌(小学館)は月刊でありながら、週刊誌的な(女性誌の場合は隔週刊で、週刊誌です。)次号に続く!という連続する、連載作品を好んで掲載していた節があります。


天は赤い河のほとり(2) (フラワーコミックス)天は赤い河のほとり(2) (フラワーコミックス)
(2012/09/25)
篠原千絵

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この為この作品も、結果的には連綿と続く果てしない物語的なところが有り、どうまとめたモノか?という、贅沢な悩みを持つ作品です。更に困るのが舞台と、主人公の設定です。
これから高校1年生になる16歳の少女?は、特別歴史に詳しい訳でも、魔術や魔法に興味が在る訳でもありません。更にその上、近年急速に考古学的な研究が進み始めたところで、御存じの湾岸戦争に始まる、いわゆる中東の武力紛争が一気に激化し、考古学に欠かせない発掘や遺跡調査どころか、遺跡そのものが紛争で破壊されています。
それでも古代のエジプト史に比べて、圧倒的に資料が少なく謎が多いとされていた、古代ヒッタイトではあります。ただ、後の時代になりますが結果的に、そのヒッタイトに取って代わった古代アッシリアなどに比べれば、文字文化が石版として残っていただけ、まだ大いに研究や検証の余地が在るのだそうです。

特に、隆盛を極めた大帝国が大きな戦争もなく、呆気なく消えた原因は作品では、「~定かではない」とされていますが、上記『フリー・百科Wikipediaリンク済み』の「ヒッタイト」の項にもあるように、『紀元前1190年頃、通説では、民族分類が不明の地中海諸地域の諸種族混成集団と見られる〈海の民〉によって滅ぼされたとされているが、最近の研究で王国の末期に起こった3代におよぶ内紛が深刻な食糧難などを招き、国を維持するだけの力自体が既に失われていたことが明らかになった(前1200年のカタストロフ)。』などと、されているようです。

ただ実際に、具体的で詳細な史実がハッキリしない上に、王族や貴族などの生活水準の高い階級はともかく、いわゆる庶民や一般の兵士などが、どのような生活を送っていたのかなどは、良く分かっていないようです。
逆にだからこそ、作品の創造の余地があり、作者が思う様大胆にその翼を広げる事が出来る、舞台でもある訳です。その上、これは古代オリエント圏の歴史の中で確かなのですが、どこよりも早く高度な製鉄技術を確立。まだ古代エジプトですら、青銅器だったのに対して鉄器を武具に使用し、最初の鉄器文化を創ったとされ、メソポタミアを征服したと言われています。
しかもこの時代は、古代エジプトで有名な第18王朝の、ファラオ・アクエンアテンと正妃ネフェルティティ。さらには、その三女のアンケセナーメンが、ヒッタイトとも戦った有名なツタンカーメンの妻となっています。
しかし、今も話題なるツタンカーメンの謎の若過ぎる死の後、アイとの結婚を嫌ったアンケセナーメンが、ヒッタイトの王シュッピルリウマ1世にその王子を婿に迎えて、国王としたいとの手紙を送った事は記録に残っています。シュッピルリウマ1世は、王子ザンナンザをエジプトに送ったのですが、途中で暗殺されたようです。
この辺りは、しっかりと作品の重要なエピソードとして、織り込まれています。

そして、何よりも主人公と共に古代アッシリアの皇太子として、様々な危険や陰謀に巻き込まれるカイル・ムルシリ(後のムルシリ2世)と共に、これら史実上の登場人物や、出来事も含めて数奇な運命を歩む事になります。

なお、歴史上の〈ムルシリ2世〉に関しては、以下を参照して下さい。




ムルシリ2世(在位:紀元前1322年頃~紀元前1295年頃)は、ヒッタイトの大王。

シリアなどへの遠征を行ってオリエントにおけるヒッタイト帝国の勢威を高めた。治世を記録した粘土板文書が発見され、その復元がかなり詳細に出来る数少ないヒッタイト王である。

〈後略〉



天は赤い河のほとり(3) (フラワーコミックス)天は赤い河のほとり(3) (フラワーコミックス)
(2012/09/25)
篠原千絵

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と言う訳で、取り敢えずだ1巻から3巻ぐらいまでの、コミックの内容について気が付いた事?みたいな!?です。


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篠原 千絵

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当然ですが、この手のタイムスリップものである以上、最初から突っ込み所は満載です。
そもそもなんで、紀元前14世紀のそれも中東の現在のシリアやトルコ周辺を支配していた、ヒッタイト帝国に1995年現在のもうすぐ高校1年生の少女が、連れ去られなければいけないのか?この辺に作者の苦心が伺えて、偶然とか血筋とかではなく、飽くまで紀元前14世紀当時のヒッタイト帝国。それも首都である、ハットゥサで次の皇帝を自分の息子に継がせたい、先王の正妃つまり皇太后です。が、その魔力を使って次代の王に近い皇太子を亡き者にする為の、呪術の生け贄としてふさわしい人物を時と場所を越えて選んだのだと、言うのです。

もちろん選ばれて、いきなり浚われた方は大変ないい迷惑ですが、このヒッタイト独自の制度から「クワナアンナ」の称号を持つ、皇太后の権力は現国王に匹敵します。
しかも、その称号は終身制で現王妃が幾ら頑張っても、皇太后が死ぬまではその名称と権限が、委譲されることはありません。これは当時でも珍しい制度で、例えばほぼ同時代の古代エジプト第18王朝の有名な王妃、ネフェルティティのように実際には既に、次の王(ファラオ)であるツタンカーメンとその正妃であり自分の娘でもあるアンケセナーメンが統治する時代でありながら、堂々とその権勢を振るうのとは違っています。最初から国政の仕組みとして、一度「クワナアンナ」となった女性は、死ぬまでその権威を保たれる事になっていたのです。
この為ヒッタイトの統治機構は、まず皇帝たる「クワナバル」これも終身制ですが、ヒッタイトでは余り長生きする皇帝はいなかったようです。実在の後の皇帝、ムルシリ2世も何度と無く国内を襲う疫病に苦しめられ、幾度と無く信託に頼っていたようですが、いかんせん自分の親兄弟も多くが、病死し祖父に当たる先々代の王も例外ではなかったようです。もっともこの物語の中では、自分をクワナアンナに立后してくれれば、用無しとばかりに呪術と毒を使い、このクワナアンナが暗殺したのだとされています。
そして自分が生きている限り、後のムルシリ2世の叔父に当たる現国王の妃は、何があっても「クワナアンナ」にはなれません。

そして「バンクス」と呼ばれる、元老院。
これは貴族や金持ちから選ばれた、言うなれば議会です。そして、本来は王妃の権限である「クワナアンナ」湖の3つの勢力が拮抗して、帝国の運営を行うというのが当時のヒッタイト帝国であったらしいのです。古代エジプトや後のヨーロッパ王家のような、いわゆる国王による「絶対王制」でも、他の専制政治でもなく飽くまでも合議制で在るところが特徴的です。
結果的に詳しい事が分から無い為か、この作品内では古代のローマ帝国を、参考にしているように見えます。帝政ローマも帝位は世襲ではなく、飽くまで議会であるところの元老院。そして、市民議会だったのですが帝国と呼ばれるほど版図が広くなっては、結果的に後に軍部となりますが元々ローマは、皆兵制でローマ市民は同時にローマ軍人でもありました。
その伝統が残った結果、古代ローマ帝国では最終的に元老院と軍部の支持無くして、皇帝にはなれなかったのです。
これは後の民主共和制での、大統領に似ていますが決定的に異なるのは、公に女性の発言権が無い事です。

これに対してヒッタイトの制度も、決して民主的でも共和制でもありませんが、今日から見ても例え1人とは言え「クワナアンナ」という、女性が皇帝と元老院に並ぶ権力を持つという国政形態は、非常に稀だと思われます。
尤も、エジプト以外の古代オリエント圏を始め、アッシリアも含めた以東大きく中央アジアまとめられる地域の、インダス文明に至る地域の古代国家や文化文明の有り様は、まだまだこれからの発掘による調査研究を、待つしかありません。ただし、アフガニスタンやパキスタンの例を見るまでもなく、どこもかしここも武力紛争地域で、容易には調査研究が進むとは、残念ながら思えません。

さて比較的にその中でも、その事跡を後に書き残した、後のムルシリ2世の時代を選んだ作者の慧眼と、強く賢い女性の在り方を、その成長ともに描くという展開が、この傑作を生みだしたのだと思います。
ちなみにタイトルの「赤い河」とは古代ハリス河の事で、現トルコ国内でも同じく「赤い河」を意味する、「クズル・ウルマック」と呼ばれているそうです。そもそもヒッタイトは、この現在のトルコ国大半を占める「アナトリア」と呼ばれる、広大な台地の中央を流れ、台地に添って大きく弧を描くように、黒海に注ぐ古代ハリス河の内側から発生したのだと言われています。


クズルルマク川

〈現トルコ共和国内のウルマック川(Gogglマップより)〉


もはや、いきなりなんで言葉が通じるのか?などの野暮は言いッこ無しにしても、いきなり暴れ馬の背中に乗って、戦場に現れるのは、どういうものでしょうか?
まず実際の現実問題として、裸馬の背中にまったく騎馬や乗馬の経験の16歳の少女が、乗れるかどうかと言われると余程卓越した運動神経と、バランス感覚を持ってしてもマズ無理というのが、基本見解でしょう。でもそれを言い始めたら、そもそもお話が進みません。しかもここで重要なのは、「初心者がいきなり乗馬した」事では無いのです。
この作品でも描かれているように、この時代の絶対的主力兵器は、馬に曳かせ弓兵か槍兵が乗り込み、御者が馬を操る「チャリオット」と呼ばれる戦車でした。この作品の当初は、ヒッタイトもエジプトも基本的に2人乗りです。
ただこの戦車、そもそもバネ(現在で言うところのサスペンション)が在りません。ですから、色々と工夫はされていたようですが、乗り心地は最悪だったと思われます。戦場を走り回るとすれば、その台地の凸凹が直接、乗っている兵士や御者を襲います。


エジプト戦車

〈古代エジプトの2人乗り〉


ヒッタイトの戦車

〈3人乗りの古代ヒッタイトの新型〉


更に、見ても分かるように方向転換をする為の操舵装置(車やバイク、自転車の前輪のように、方向転換する装置)がありません。
基本的には前進しかできませんし、曲がる時には引っ張る馬の方向へ、車ごと振り回して貰うしか在りません。つまり小回りが利かず、全ては御者の腕次第となります。この為、非常に強力な武器にはなりますが、広い平地以外では特に2人乗りの場合は、御者が狙われるので決して使い勝手の良い武器とは成り得ません。
そもそも、専門の御者と馬とを常時維持し熟練させる為の、訓練をしなければならないので、コストがバカになりません。特にヒッタイトは、決して肥沃な土地とは言えず、先んじて実用化した鉄器の製造技術と、その為の鉄鉱石の発掘を兼ねた鉱山の開発によって、様々な鉱物を産出しそれを他国へ売るのが主な収入源だったと考えられます。
また、シルクロードに代表される大陸間流通ルートの要でもあったので、その経済的な取り引き利益も、大きかったのではないかと推測されます。ただ、古代エジプトのように、国内の産物で充分国力が養える訳ではなく、常に四方から外敵に狙われると同時に、出入りの商人や旅人が多く様々な地方の疫病が、持ち込まれやすいと言う欠点も常に抱えていました。
また、古代ローマ以前の古代国家の中では珍しいほど公正な、政策体勢を敷いていた結果、常に内紛や内外に反乱や暴動の危険があり、時として為政者達はその火消しに忙殺される事にもなりましたし。特に皇帝は常に暗殺の危機に、身を置いていたとも言えます。
まったく親子兄妹とはいえ、信頼できる味方をどれほど確保できるかも、重大な問題だった事は、この作品の中でも大きな部分を占める、話題として語られています。

さて武器としての戦車として、重要な存在として馬が出て来ましたが、この作品では「ヒッタイトで最初に騎乗して見せたのが主人公ヒロインだった!」という事に、なっています。
偶然、非常に強力で気性の荒い馬の背中に乗ってしがみつき、味方と交戦中の敵の背後から飛び出して来て敵を攪乱し、その機を逃さず皇太子の軍が敵を蹴散らした!という場面があり、そこから皇太子は馬に人が乗る事で機動力も、小回りも利く大きな戦力になることに気付くという、場面があります。
これは後の時代になりますが、あれほど強力な軍を持ち、史上初めての世界国家を作り上げた古代ローマ帝国ですら、なぜか騎馬の重要性は理解しこの為に、傭兵的な形で騎馬民族を平時から味方にする事に腐心していたと言います。そして、世界で最も早く騎馬による高速移動戦術を使用して、当時の大帝国ペルシアを妥当した有名なアレクサンダー大王の騎馬ですら、何と(あぶみ)と(くつわ)が無かったと言います。

これは非常に奇妙な事ですが、あれほど土木建築に優れ、戦闘と土木工事を一体として運用していた、古代ローマ軍ですら、鐙と轡を作る事はありませんでした
その為に、「生まれた時から馬に乗る」とか、「馬の背で生まれて来た」と言われる、騎馬民族に頼る他無かったのです。もちろん、彼らは鍛錬で裸馬に乗っていたのであって、轡も鐙も付けてはいませんでした。特に鐙の原型作られたのは、紀元前5世紀頃のインダス方面ではないかと言われていますが、これは主に騎乗する為の足掛かりで足の指先だけを突っかけるだけのものだと言われています。
しかもほとんどが皮や布製で、現物が今のところ見付かっておらず、またもう少し時代が下ってからも、騎乗する為の片側だけのモノしか、発見されていないようです。背中に乗るための椅子である鞍は、どこの世界でも早い内に作られたのですが、なぜか鐙も轡もなく馬を制御する為には、馬も人も相当の訓練が必要でした。やがて、轡と手綱の組み合わせで馬の制御には一定の目途が付きましたが、何しろ不安定な馬の背です一旦暴れ出したら、戦闘続行どころでは無くなります。この為、長く戦車が戦場の主役となったようです。

そしてこの画期的な発明であり、当時の戦術にに革命的な変化をもたらしたと言っていい、馬の鐙のがいつどこで原型が完成したのかは、どうもハッキリしません。
少なくとも、秦の始皇帝の有名な「兵馬俑」から出土した騎馬武者は、鐙を付けていませんでしたから、この頃はまだ騎乗する為の補助具だったのではないか?と言われています。結局ハッキリしませんが、紀元8世紀前頃には黒海周辺に現れた謎の騎馬民族、スキタイ人が鐙を使用していた事は間違いないようです。これがやがて鉄製のモノとなり、大いに踏ん張りが効き、激しく動く馬の背でも乗った人間が片手または両手で、武器を自由に操れるようになるとまさに騎馬は戦場での最強兵器となりました。
それでも、この鐙在っての騎兵という存在がギリシャを通じてヨーロッパに広まるには、まだ長い時間を要したようです。ですがその時間は、同時に重い甲冑を身につけた人間1人を支えられる、大きく強い馬が広まる時間にも相当したようです。


馬具02

〈鞍と鐙、轡(ここではハミと同列)と手綱が無ければ
馬の操作と、騎乗での活動は困難です〉


と言う訳で、ずいぶん前置きが長くなりましたが、『天は赤い河のほとり』と言うマンガの、コミックス第2巻辺りで黒い大きく気性の荒い馬の背中に、偶然主人公ヒロインが飛び乗って(飛び乗る事になったのは、偶然ではありませんが・・・)、それに驚いた馬が駆け出します。
主人公はただひたすら、激しく揺れる馬の背に乗って、落とされまいとしがみつきながら、「止まって!大人しくして!馬ァ~ッ!!」と、馬を馬と呼びますが気性の荒い馬が、そんな呼びかけに応じるハズもありません。馬は、主人公を乗せたまま真っ直ぐに進み、崖の上に出ます。
しかし、馬の上で落ちないようにしがみつく主人公には、前が崖だろうが何だろうが馬が止まらない限りは、どうにもなりません。もはや完全な暴れ馬は何と、一気に崖に飛び出しその急勾配を駆け下ります。しかも、そこはまさに皇太子達が戦っている、真っ最中!

そもそもこの戦闘は、それほど大規模なモノではなく、地方都市に周辺の民族が襲って来た(何者かに焚き付けられて・・・)という、大規模な強盗程度で襲って来た連中も正規の兵士ではありません。
その為突如、背後の高い崖から黒い大きな馬が駆け下りてというよりは、ほとんど飛び降りて来て周辺を暴れ回るモノですから、当然背後からの奇襲でこの後に大部隊が続くと勘違いしたのも、無理はありません。たちまち形勢は逆転して、体勢を立て直した皇太子軍に、追い散らされた上に背後の崖からの奇襲に(だと、思い込んだ人馬の落下突入に・・・)、すっかり戦意を失って、引き上げて行きました。
元々都市を、襲撃者を追い出すのを目的とした皇太子は、それ以上の追撃はせずに戦闘を終了します。皇太子は、馬に乗って戦場を自在に動き回る、黒い大きな馬と主人公の姿に、これまでの戦車での戦い方に変わる、新たな戦闘方法を見出したようでした。
マァ、これも言っちゃおしまいなのですが、1995年のこれから高校生になろうという日本人の少女が、当然乗馬や騎乗の経験など在る訳もなく。飛び乗って、何となるというのは、いわば「火事場の何とやら」でしかないでしょう。ただ、この手の異世界トリップ・ファンタジーでは、お馴染みの常套手段と言う事で御勘弁いただこうという事でしょう。

ただし本人の与り知らぬ事とは言え、この当時の世界では人が馬の背に乗ること自体が珍しく、まして戦場に於いて馬は兵士を乗せた、戦車の動力でしか在りません。
逆に主人公にとって、「馬とは背に乗って走るもの!」という、現代的な固定観念がありますから、そこに迷いはありませんでした。問題は、自分が馬に乗れるかどうか?だったハズですが・・・。この場合は、彼女がたまたま乗った馬が、この時代のモノとしては非常に大きく力の強い、軍馬としての調教を受けていた事でしょう。簡単に言えば、いきなり飛び乗って来た小柄の少女を、馬の方が気に入った?と考えた方が、自然かも知れません。
それほど裸馬の背に乗り、鐙も轡も手綱も無しで何とかなるというのは、今日の常識から言っても《不可能!》です。

さて作者が意図したのか偶然かですが、「源平合戦に於ける源義経の功績」として有名なモノに、「一ノ谷に於ける合戦時の鵯越(ひよどりごえ)」と言うものがあります。
これがまさに、今回の場面と同じく背後を断崖絶壁に囲まれ、前方は開けた海という守に安く攻めるに難い、難攻不落の場所に陣を構えた平家軍に、源氏の軍が来襲します。ですが何しろ陸路は細く、大軍が進むのは不利で形勢は良くありません。その時、数十騎精鋭を引き連れた義経が「鵯越」と呼ばれる、一ノ谷背後の断崖絶壁に立ち案内の者が「ここはとても人や馬では降りられません」と言うので、他に降りる獣はいるかと?尋ねて、「鹿ならば時々」と言う返事聞き実際に2頭の馬に崖を駆け下ろさせました。

1頭は足を損ないましたが、1頭は無事に下まで降り立ちました。
これを見た義経が、有名な「鹿も四つ足、馬も四つ足。心して下れば馬を損なう事はない。」と叫んで、一気に自ら坂を駆け下ります。都で貴族趣味に染まった平家に対し、自ら「板東武者」とその猛々しさを標榜していた源氏の軍勢は、遅れてはならじと義経に続きます。
まァ、この辺が有名な「平家物語」の名場面なのですが、この場所や実際の戦闘経過には諸説有り、未だ決着はしていないようです。とにかく、今の今まで前ばかり見ていた平家軍に対し、断崖絶壁の背後からの急襲は完全に予想外!
しかも義経は、相手の混乱を見済まして、少数の味方多数に見せる為(と言われていますが・・・)に、周囲にところ構わず火を掛けさせて、混乱に拍車を掛けます。想定外の背後からの、〈大軍の〉急襲と思い込んだ平家軍は、それまでの攻勢もどこへやら、我先にと海の方へと脱出を試みる、大混乱に陥りました。

かくして、平家の再軍備計画は頓挫し、逆に更に西へと背走する結果となりました。
という話が、平家物語を始め源平合戦の主要部分の1つとして、語り継がれています。この天は赤い河のほとり第2巻に於ける、突然の主人公ヒロインが戦場に乱入し、敵が混乱に陥るという部分も、まさにこの少数精鋭の奇襲を1人と1頭の、それも非武装で行ったようなモノです。
しかし、場面として納得もできます。まず基本が、戦車兵同士の戦いであり、既に述べたように当時の戦車は、前進には効果あっても、反転や後退はほとんど出来無い!に、近い状態です。
そこへ敵の軍が。来るハズの無い背後から現れたと言われれば、そりゃ顔色も変わります。更にその軍が(実際には1頭と1人でも)この当時の常識を外れた、馬の背に乗る騎馬戦スタイルだったとなれば、戦車と違って方向転換や加速減速自由自在。まさに(武器さえ持っていれば)、無敵の軍隊(繰り返しますが実際には1人と1頭です)と言えます。

大混乱に陥った敵軍を、事情を少なくとも戦力的には1人と1頭と知っているヒッタイト皇太子軍が、見逃すはずも無く形勢は一気に逆転。
敵はほとんど自ら、壊滅的に背走して行きました。馬の背に人が乗る、騎馬戦術の重要さに皇太子も気が付きましたが、残念ながら乗馬にも騎馬の戦闘にも縁の無い、主人公ヒロインはここで鐙や鞍。手綱などの、騎馬や乗馬の基本となる必須要素を、古代ヒッタイトに伝授する事は出来ません。
ただ、馬の背に人が乗れる事は、彼女の常識であり実際に実演して、実戦で効果を見せた訳です。この後皇太子は自分も含めて、騎馬に自信のある者に騎乗を勧め小規模ながら、特設の騎馬部隊を作る事になります。
これは後の騎馬民族同様、裸馬に轡(くつわ)と手綱を付けただけの、鞍も無いモノでしたがその速度は、この時代の常識を大きく上回り、それだけでも伝令などの貴重な戦力となりました。馬に戦車をひかせる必要上と、御者が馬を操る為に既に手綱と轡のようなモノは、既に存在していました。

そして第3巻のクライマックスが、鉄剣を主人公が手にして、自分に掛かった弟殺害の疑いを晴らし、その3人の姉の絶対的な忠誠と、父である製鉄部族の族長から今後の製鉄技術の産物の権利、全てを捧げられます。
これは未だ青銅器文化時代にあって、特に戦闘では圧倒的な古代ヒッタイトの、鉄器文化でした。この事から、そもそも方便として用いていた、「戦の神イシュタル(一応女神のようです)」の呼び名が、主人公に定着します。
同時にイシュタルは、明けの明星(みょうじょう)でもある、金星を意味していました。即ち彼女は、戦いの神である夜明けの星、金星からヒッタイトの皇太子に使わされた、女神の娘いや女神そのものとさえ、思われるようになって行きます。

〈出来れば4巻以降へと続く〉




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