森薫著コミック『乙嫁語り』第7巻とその続編掲載の『ハルタ・2015-FEBRUARY』Vol.21が発売されています。



最初に森薫コミック乙嫁語り第7巻が、発売されました。


乙嫁語り 7巻 (ビームコミックス(ハルタ))乙嫁語り 7巻 (ビームコミックス(ハルタ))
(2015/02/14)
森 薫

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表紙の通り、まさに〈アニス編〉です。
アミルさんはもちろん、エイホン家の面々も全く登場しません。本来この場所への案内役だった、スミスさんはさらにもう一層出番がなくなります。ほとんど、文字通り「スミスさんを捜せ!」という感じで、登場している場面が何コマ見付かるか?という、状況です。

どうやら、多くの人がネット検索などして調べたらしい、《姉妹妻》の慣習は、原作者によるコミックス後書きに拠れば、《19世紀頃まであったイスラム文化圏の風習。既婚女性同士が夫婦間の婚姻のように縁組を行う。》とあります。
既に拙ブログでは触れていますが、「一夫多妻制での、夫人間の関係とは全く無縁です。男性で言えば〈義兄弟の契り(中国の『三国志演義』で有名な《桃園の誓い》)に近い〉様なもの」だ、そうです。
この物語では、結果的に相手の夫が急死し、窮地に立たされた〈義姉〉を救うべく、裕福で寛容なしかも自分以外の妻を持たない愛妻家の夫に、アニスさんが「初めての頼み事」をして、〈義姉〉を夫の二人目の妻として迎えて貰います。その結果、夫はその第2夫人となった〈シーリーン=義姉〉さんだけでは無く、その亡くなった前夫の両親まで含めて、〈義姉〉家の全てを引き受けます。

一応現代及び西欧社会の代表として、スミスさんが「妻を複数娶る事と、その相手の家族の全てを引き受ける事」に関して、問題が無いかを確認します。
ですが、「誰かを助ける力がありながら、それを使わないのはよくない~」と言う、真正面からの正論に「持てる者は、より多くの義務を負う。自分の国(19世紀中期のイギリス)にもその考えはあります〈=ノブレスオブリージュ、財産・権力・社会的地位の保持には責任が伴う〉」と言いながらも、どうしても顔は正面を向きません。伝統慣習社会制度、その全てに於いて、男性依存で生きる女性の立場は、とても弱く苦しいものがある。たぶんスミスさんにも、その状況は理解できたのでしょう、自分自身の苦い経験と自国の社会制度に於ける、女性の在り方についてよく知っているのでしょうから。

こんな事を、ここで繰り返すのも何なんですが、時代はたぶん19世紀の中頃から後半の、場所は現在では消えてしまったアラル海(カスピ海の北)を越え、アジア大陸の中央へと向かう途中です。
いわゆる古代ペルシア帝国が栄えた地域(現在のイランから東方、恐らくインド近くまで)が、今回の舞台です。そして作者は、繰り返していますが「この作品に宗教は持ち込まない!」しかし、信仰や伝統は重んじています。例えばこの以前、アラル海沿岸の村で、双子同士の結婚式を描いた時には、結婚を司る「司祭様」が登場し、「聖典」の上で結婚の儀式を行いました。
しかし「聖典」とは、「コーラン」も「旧約聖書」や「新約聖書」をも、意味する言葉です。だから何の聖典だとは、作品の中では明らかにされていません。「神様」と言う単語も良く出てきますが、それが何のどんな神様なのかの、説明はありません。
敬い願う対象としての「神」は存在するけれど、その意味付けは作品内では行わない!この姿勢は、徹底しています。
尚ここで、余計なお節介だとは思いますが、「4人まで妻が持てる」という一夫多妻の伝統的な習慣は、「4人」という数字が印象に残りますが、基本的には古代ユダヤ教・キリスト教そして現代イスラム教に至るまで、認めています。近代になり、男女平等の価値観から、一夫一婦制を尊ぶ法治主義が特に近代法治国家には、浸透して来ましたが実際には最近のキリスト教の一派には、堂々と一夫多妻を認める教義を持つものもありました。

要するに、いわゆる中東に端を発する「セム語族系一神教(代表的なのが古代ユダヤ教だと思います)」の、過酷な生活環境を生き抜く為に種族として団結する為に、家父長的一神教が適していたのではないでしょうか?
逆に世界的に見ると、ギリシャ神話(古代ローマ神話)や北欧神話を見るまでもなく、日本も含め「自然神的多神教」が、最も一般的でした。世界規模に於いては、古代は圧倒的に様々な多神教によって、地域的民族的な団結を計っていたと考えられます。ただし、ここには一神教に対抗できるほどの、組織的な団結力の背景となる精神性は、脆かったのだと思います。
尤も、この辺は専門の書籍や研究者に、委ねる問題なので程々にしておきます。何より重要なのは、作者はこの作品で色々な場所の地域的部族的な信仰対象は良く取り上げるますが、あくまでも「民族文化」としてであり、「宗教ではない!」としている点が、最重要だという事です。

なおこの乙嫁語り第7巻には、オマケ番外編としてすっかりご沙汰の、アミルさんが嫁いだエイホン家を舞台にした、短編が付いています。
ハルタ紙上では見かけていませんので、あるいは単行本用の描き下ろしかも知れません。そしてこのコミックの後書きにも記されているように、次のハルタには終わったハズの「アニス編」後日談が、掲載されています


ハルタ 2015-FEBRUARY volume 21 (ビームコミックス)ハルタ 2015-FEBRUARY volume 21 (ビームコミックス)
(2015/02/14)
入江 亜季、森 薫 他

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さらにこのハルタの予告によれば、いよいよ次回からはあの「パリヤ編」になるようです!
「乙嫁語り」最高のツンデレキャラ?パリヤさんの御相手は?そもそも果たしてうまく行くのか?大いに期待です。


「アニス編」はある意味で、普遍の少女マンガ的な物語?
今回の第7巻のメインとなる、〈アニス編〉では、これまでの完結した「エマ」シリーズや「シャーリー」シリーズなどで、ファンになった人の多くから「作者病気説」は良い方で、中には「ついにこの作者も手抜きを覚えたか?」などという暴言まで、飛び出す始末だったそうです。
この点で1つ明らかなのは、「作者が意図的に、これまでとは異なる、細い線で描く事を重視した!」という事です。これは御自身が述べられていますが、「細い線で描く為のGペンに慣れるのが大変だった」とか、完成原稿に「描くところがもう無い!?」と知って、驚いて何度も見直したのだそうです。

この「描くところがもう無い!?」と言う理由の1つに、全編がお風呂編!と言っていいほど、女性の裸シーンが多かった!事が、有るそうです。
当然と言えば当然ですが、ほとんどトーンを使わずに、複雑な重ね着の文様や、背景の壁絨毯の文様。更には、描き込まれた自然の風景等々が、独特の蒸し風呂による湯煙もあって、ほとんど描き込む必要がありませんでした。もちろん女性の(この場合作者も含めて、誰も男性の裸体には、余り関心が無いという前提ですが‥‥‥)全裸の場合、前からも後ろからも、ほとんど細かく描き込む余地はありません。アップになっても、本来描き込むべきシーンは、当局のお沙汰によって精緻な描写が禁止されているので、描きようがありません!(本末転倒ですが‥‥‥)

そしてここからは完全な推測ですが、今回の物語は「乙嫁の乙嫁による乙嫁同志の物語り!」で有るという点です。
女性として、嫁としての義務であるところの、子供はどちらももう生んでいます。育児方法などに、母親としての自覚が問われますが、同時にそれがこの物語のテーマであるところの《乙嫁》の原則「可愛いお嫁さん!」点に、ジャストフィットな訳です。
言ってしまえば今回の物語は、作者森薫による珍しく女性視点の乙嫁物語り!と、言えると思います。

全てに恵まれて、完全な箱入り娘でお嫁に来て、夫は信じられないくらいの大富豪で、しかもこよなくその無垢な妻1人を愛している。
何にも困らない、何もかもが与えられるので、最初から欲しいものなど無い!純真無垢のまま、子供まで生んでいるヒロインは、まさに乙嫁中の乙嫁と言えると思います。この何もかもに恵まれた結果、何者も自分のものを持たない持てないヒロインが、初めて自らが傷付き辛くても、それらを越えても、尚欲しいものの存在を知ります。
それが、掛け替えのない友人!でした。言ってしまえば陳腐ですが、何しろ生まれた時からの純粋培養箱入り娘で、その箱に入ったまま夫の館という別の大きな箱に移って、子供こそ生みましたがその意味も意義すら、まともに自覚できてはいません。

これはまさに、少女が恋をして娘になり、やがて女としての自覚を持ちを、愛を知り伴侶を得る。
まさにいわゆる、「百合ものパターン」の典型ですが、慣習として「女性は無闇に外を出歩かない」とされている社会環境では、基本的に同性の友達すらままなりません。

そんなヒロインが初めて、女同士で文字通りの裸の付き合いが出来る、「公衆浴場(もちろん女性専用)」の存在を知り、初めての家族や親類以外の女性(男性は兄弟でもダメな場合があります)との、気軽な会話が出来る場所を得たのでした。
舞台を、エスカレーター式一貫教育で私立のお嬢様学園とすれば、そのまま日本の「百合世界」とも言えます。ただ異なるのは、ここは英国の男性用クラブと同様に、成人つまり大人の女性しか入れません(確か、赤ん坊もダメだったと思います。基本蒸し風呂ですから、慣習や規律の前に危険です)。そして日本の百合世界ではなぜか、学園内だけの関係で完結し、卒業や結婚などで片方でも学園を出ると、もはやその姉妹関係はおろか友人関係すら、無縁のものとなる不思議があります。
ですが、ここでは公に認められた慣習として、正式な儀式に乗っ取り取り持ち役を立てて、ふさわしい日取りにふさわしい場所で、互いの親しい女性達を集めた前で行う儀礼として、成立するそうです。ちなみに両方とも既婚者という事が、条件だそうです。
作者によれば、これは生涯続く関係で、片方が先に亡くなった場合には、それなりの財産分与権も、あったようです。更に仲の良かった者同士は、同じお墓に葬られる事もあったそうですので、夫の立場はどうなるのか?とは思いますが、大人になっても、女性1人の外出がままならない社会で、女性同士が複数であれば、泊まりがけの旅行もできると言うのは、実に魅力的な制度で慣習かも知れません。

と言う訳で、順調に「姉妹妻」という親友を得たヒロインの喜びは、大変なものですがここで予期せぬ不幸が、親友を襲います。
彼女の夫が、いわゆる「突然死」をしてしまうのです。ヒロインと異なり、毎日公衆浴場にも行けない、ギリギリの生活を何とか夫の稼ぎで賄っていた相手にとって、老いた舅姑夫婦と幼子を抱えこのままでは、路頭に迷う事になるかも知れない!
既にこの物語の冒頭で、如何にヒロインが恵まれているかの説明で、「旦那様なら、もう2・3人奥様がいても不思議では無い~」と言われていましたので、まさにこのヒロインの境遇と彼女を娶った夫との関係は、例外中の例外と言っても良かったようです。

もちろん、そんな事をヒロインは知りませんでしたし、夫もまた口にしませんでした。
しかし、この姉妹の契りを交わした親友の危機に、彼女は敢えて夫に頼むのです。「彼女をもう1人の奥さんにして下さい!」と。溺愛する唯一の妻の、初めてのお願いが、「妻をもう1人娶れ!」とは、夫も随分と驚いたようですが、妻が親友と契りを結ぶ事によって、どんどん変わってゆく様を見ていた夫は優しく受け入れてくれます。

『ハルタ・2015-Feb・Vol21』には、単行本第7巻に収録されていない「アニス編」のその後を描いたものが、読み切りの形で収録されています。
表紙欄外によれば、〈「もう少し読みたい!」の声にお答えします。〉という事ですが、単行本収録は次巻と言う事になると思いますので、やや場違いというか番外編としても納まりの悪い気がします。ただこれ以上、7巻を分厚くすると他の巻とのバランスが悪くなると言う事も、事実だと思います。
ただもはや完全にスミス氏を始め、これまでのレギュラー・キャラ?は、誰も出演していないのがチョッと残念です。オマケとして、この号のハルタ本誌には森薫氏のラフスケッチ「Scribbles5」が、付いています。


とにかく、第7巻「アニス編」の予定調和は、実に見事です。単行本では小さくなるのが残念ですが、7巻・第1話のラストシーンと、事実上この間の最終話・第8話のラスト・シーンの対比は、見事の一言に尽きます。
結局、どれだけ少女マンガちっくに描こうと、正統派の劇映画型マンガ家としての森薫氏は全く揺るがなかったと、言えると思います。


アニス10

〈第7巻・第1話・ラストシーン〉


見事な対です!


シーリン033

〈第7巻・第8話・ラストシーン〉


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