森薫著コミック『乙嫁語り』第7巻とその続編掲載の『ハルタ・2015-FEBRUARY』Vol.21が発売されています。
最初に森薫著コミック『乙嫁語り』第7巻が、発売されました。
表紙の通り、まさに〈アニス編〉です。
アミルさんはもちろん、エイホン家の面々も全く登場しません。本来この場所への案内役だった、スミスさんはさらにもう一層出番がなくなります。ほとんど、文字通り「スミスさんを捜せ!」という感じで、登場している場面が何コマ見付かるか?という、状況です。
どうやら、多くの人がネット検索などして調べたらしい、《姉妹妻》の慣習は、原作者によるコミックス後書きに拠れば、《19世紀頃まであったイスラム文化圏の風習。既婚女性同士が夫婦間の婚姻のように縁組を行う。》とあります。
既に拙ブログでは触れていますが、「一夫多妻制での、夫人間の関係とは全く無縁です。男性で言えば〈義兄弟の契り(中国の『三国志演義』で有名な《桃園の誓い》)に近い〉様なもの」だ、そうです。
この物語では、結果的に相手の夫が急死し、窮地に立たされた〈義姉〉を救うべく、裕福で寛容なしかも自分以外の妻を持たない愛妻家の夫に、アニスさんが「初めての頼み事」をして、〈義姉〉を夫の二人目の妻として迎えて貰います。その結果、夫はその第2夫人となった〈シーリーン=義姉〉さんだけでは無く、その亡くなった前夫の両親まで含めて、〈義姉〉家の全てを引き受けます。
一応現代及び西欧社会の代表として、スミスさんが「妻を複数娶る事と、その相手の家族の全てを引き受ける事」に関して、問題が無いかを確認します。
ですが、「誰かを助ける力がありながら、それを使わないのはよくない~」と言う、真正面からの正論に「持てる者は、より多くの義務を負う。自分の国(19世紀中期のイギリス)にもその考えはあります〈=ノブレス・オブリージュ、財産・権力・社会的地位の保持には責任が伴う〉」と言いながらも、どうしても顔は正面を向きません。伝統・慣習・社会制度、その全てに於いて、男性依存で生きる女性の立場は、とても弱く苦しいものがある。たぶんスミスさんにも、その状況は理解できたのでしょう、自分自身の苦い経験と自国の社会制度に於ける、女性の在り方についてよく知っているのでしょうから。
こんな事を、ここで繰り返すのも何なんですが、時代はたぶん19世紀の中頃から後半の、場所は現在では消えてしまったアラル海(カスピ海の北)を越え、アジア大陸の中央へと向かう途中です。
いわゆる古代ペルシア帝国が栄えた地域(現在のイランから東方、恐らくインド近くまで)が、今回の舞台です。そして作者は、繰り返していますが「この作品に宗教は持ち込まない!」しかし、信仰や伝統は重んじています。例えばこの以前、アラル海沿岸の村で、双子同士の結婚式を描いた時には、結婚を司る「司祭様」が登場し、「聖典」の上で結婚の儀式を行いました。
しかし「聖典」とは、「コーラン」も「旧約聖書」や「新約聖書」をも、意味する言葉です。だから何の聖典だとは、作品の中では明らかにされていません。「神様」と言う単語も良く出てきますが、それが何のどんな神様なのかの、説明はありません。
敬い願う対象としての「神」は存在するけれど、その意味付けは作品内では行わない!この姿勢は、徹底しています。
尚ここで、余計なお節介だとは思いますが、「4人まで妻が持てる」という一夫多妻の伝統的な習慣は、「4人」という数字が印象に残りますが、基本的には古代ユダヤ教・キリスト教そして現代イスラム教に至るまで、認めています。近代になり、男女平等の価値観から、一夫一婦制を尊ぶ法治主義が特に近代法治国家には、浸透して来ましたが実際には最近のキリスト教の一派には、堂々と一夫多妻を認める教義を持つものもありました。
要するに、いわゆる中東に端を発する「セム語族系一神教(代表的なのが古代ユダヤ教だと思います)」の、過酷な生活環境を生き抜く為に種族として団結する為に、家父長的一神教が適していたのではないでしょうか?
逆に世界的に見ると、ギリシャ神話(古代ローマ神話)や北欧神話を見るまでもなく、日本も含め「自然神的多神教」が、最も一般的でした。世界規模に於いては、古代は圧倒的に様々な多神教によって、地域的民族的な団結を計っていたと考えられます。ただし、ここには一神教に対抗できるほどの、組織的な団結力の背景となる精神性は、脆かったのだと思います。
尤も、この辺は専門の書籍や研究者に、委ねる問題なので程々にしておきます。何より重要なのは、作者はこの作品で色々な場所の地域的部族的な信仰対象は良く取り上げるますが、あくまでも「民族文化」としてであり、「宗教ではない!」としている点が、最重要だという事です。
なおこの『乙嫁語り』第7巻には、オマケ番外編としてすっかりご沙汰の、アミルさんが嫁いだエイホン家を舞台にした、短編が付いています。
ハルタ紙上では見かけていませんので、あるいは単行本用の描き下ろしかも知れません。そしてこのコミックの後書きにも記されているように、次のハルタには終わったハズの「アニス編」後日談が、掲載されています
さらにこのハルタの予告によれば、いよいよ次回からはあの「パリヤ編」になるようです!
「乙嫁語り」最高のツンデレキャラ?、パリヤさんの御相手は?そもそも果たしてうまく行くのか?大いに期待です。
★「アニス編」はある意味で、普遍の少女マンガ的な物語?★
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