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《森薫による在りし日の奇跡の湖「アラル海」の情景》『乙嫁語り』目当てのハルタ・Vol74-2020年5月号及びハルタ・Vol75-2020年6月号




2020年05月発売 『ハルタ・Vol.74』
「乙嫁語り」-お客様(後編)-



ハルタVol 74



初のお客様歓迎パーティに、新婚双子組がまさに空中分解しそうな、テンテコマイ状態の場に救世主登場?
前回のスミス氏一行には、同行していなかった美人タラスさんが、御挨拶の為に訪れました。どこまでも上品なタラスさんに、双子姉妹は一発で舞い上がります(まだまだ子供ですネ)。
ともかく母や祖母が止めるのも聞かず、あれやらこれやらテンテコマイの料理を放り出しての、質問攻め。もちろんタラスはそれを静かに大人美人対応。夫双子兄弟も気を取られ、料理が・・・。

そして、ここで次回に続く布石が「海に入った事は無いの?」と言う双子姉妹の素朴な質問に、「川で水浴びをした事があるくらいで・・・」と答えるタラスさん。
重要なのは、この舞台の背景設定です。中央アジア(広義には、「アジアの中央部」を意味し、東西トルキスタンのほか、カザフステップ、ジュンガル盆地、チベット、モンゴル高原、アフガニスタン北部、イラン東部、南ロシア草原を含む。ウィキペディアWikipediaリンク済み)と一口に言っても、大きく分けて3つの種類があります。

1.18世紀から19世紀にかけては一般にトルキスタンを指した。

2.旧ソ連諸国のうちカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5か国を含む。これが現在最も一般的な中央アジアを示し、中央アジア5カ国と呼ばれる。

3.更にカザフステップ、ジュンガル盆地、チベット、モンゴル高原、アフガニスタン北部、イラン東部、南ロシア草原を含み、所謂(いわゆる)「中央ユーラシア」の一部と捉える場合もある。

いずれにしても、この「1」で示された中央アジアは、草原・砂漠・荒野・山岳地帯が広がる、内陸性気候で乾燥と夏季と冬季はもちろん一日の寒暖差が激しく、余り快適な生活は望めないと言われています。
主に世界最大の湖として知られる、「カスピ海」の東側に広がり、年間降水量が少なく地下資源は別にして農業などには向かないと言う事が、「アラル海」という内陸湖(海に流れる川を持たない、塩水湖)の未来を決定しました。
実はこのアラル海は、そんな厳しい自然環境に豊かな恵みを与える、まさに命の海そのものでした。二つの川から流入する淡水の多くは、山岳地帯の雪解け水と湧き水です。これで海に流れ出る川の無い、世界で4番目に大きな湖を形作っていました。
内陸湖で、海へ流出するする川を持たない湖の常として、このアラル海も塩水湖でした。しかしその塩分含有量は、外海の1/3程度だったと推測されます。さらに、山岳地帯を経て草原や荒原を削りながら、流れ込む淡水は、豊富な栄養素となるミネラルなどを多量に含み、最終地点となる湖に類い希なる巨大オアシスを作り上げたようです。

この水が貯まる一方の湖が、どうして一定の大きさで留まっていられたかと言うと、それはこの地域の大地にありました。
とにかく水を良く通すのは、主に湖底が砂岩層や長い時間を掛けて、山岳地帯から転がり出てきた大小様々な岩が、長い流れの果てに角が取れて丸くなった物が堆積した礫岩層。それらを通じて水は、まるで奇跡のように流入した分だけ、湖の底から水を通し難い岩盤まで到達し、そこから四方へと水通しの良い大地を、草や木々の生い茂る豊穣な大地へと変貌させたのでは無いかと、考えられています。


消えた海』(ウィキペディアWikipediaリンク済み)

《アラル海(左:1989年、右:2014年)》

アラル海比較02







1960年に旧ソ連政府は『アラル海はむしろ美しく死ぬべきである』と公言して憚らず、ついにアラル海に流れ込む2つの大河のアラル海への流入を完全に止めて、農業用水としての灌漑に回すようになります。
残念ながら、外洋の1/3程度の塩水湖であるアラル海の水産資源の価値よりも、周囲の農業灌漑に灌漑に淡水である川の水を利用した方が、得策だと判断したからでした。漁業だけで年間数万トンの水揚げを誇り、それを目当てに集まってそこで生活する、これまた万単位の人々を養って余りある、奇跡の巨大湖アラル海(1960年当時ですら、世界第4位!の広さ)。

この外海への出口を持たない、巨大湖の水がどうして溢れないのか?
それはこの内陸湖のある場所が、極めて厳しい内陸性の砂漠気候だったからに、他なりません。雨の恵みは殆ど無く、夏季と冬季それに昼と夜の寒暖差が極めて大きい上に、1年を通じて湿気という物に縁の無い大地。
そんな不毛の土地に、1年を通じて豊かな草を育み広い森林を維持していたのが、他ならぬ巨大なオアシスとも言える、アラル海だったのです。その広大な湖面からは常に膨大な水蒸気が立ち上り、湖底からは周囲の土地に広がるように、これも莫大な量の貝類や藻の類い。更には、湖底の地質による天然の濾過装置を通って、真水に近い状態に戻った水分が常時湖周辺の大地を潤していた結果です。

遠く山岳地帯の雪解け水から、途中の湧き水を湧き水を巻き込みながらアラル海に流れ込む2本の大河!
湖の水量と、絶妙のバランスを保ちつつ流れ込む川の淡水によりアラル海は、海水魚も淡水魚も生息できる栄養豊富な水資源として、絶望の乾燥地帯にまさに命の海そのものとなっていたのです。
そう、この「乙嫁語り」が描かれる19世紀半ばまでは・・・。



2020年05月発売 『ハルタ・Vol.75』
「乙嫁語り」-海へ-


ハルタVol 75


〈Amazonリンク済み〉


だからここで初めて、「塩辛い!」塩水の湖、即ち「」を遊牧民族で、こんな事でも無ければ一生涯「海」を知る事も無かっただろう、タラスさんが海を知り更にまるで人魚のように、自由自在に海の中を泳ぐ双子姉妹に導かれ。
遠い時代に、外洋から切り離されそれ故に生き残った、古代魚すら泳いでいただろう豊穣の海を、まさに堪能できたのでした。作者は1世紀前には存在し、まさに「人間の奢りと傲慢」によって、意図的に消滅させられた乾燥地帯に生まれた、奇跡の豊穣の海とそれ共に生きた人々にの日常の生活に、静かに想いを寄せると同時に今まさに、この地域一帯に広がる国と国・民族と民族・その泥沼の諍い。

そこに必然的に発生する、様々な弱き人々の嘆きと怒り。
そして、絶望と悲しみ。その人々の上空を、その1発の値段で一体何十人のその日の飢えと渇きを、満たす事が出来るかというミサイルが飛び、更に人々を悲哀と怨念の渦に叩き込んで、いるのでしょう。実際にそこに住む訳でも無く、乾いた風に身を晒す事も無い《大国》と呼ばれる、国の指導者達による国益という名のマネー・ゲームの果てには、決してかつての豊穣の海が自ら生み出した緑溢れる自然が、蘇る事は無いのだとそのペン先が、声亡き嘆きを上げているように思えてなりません。






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